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交通事故の後遺障害について、医学の国家資格を持ち、専門知識を武器に交通事故被害者の味方となる弁護士が詳しく解説します。
ご存知ですか?
交通事故の後遺障害は、治療を受けていればそれだけで適切な認定を受けられるものではありません。被害者の側でしっかりと証拠を作っていかなければ、後遺障害が残っても等級が認定されないことが多々あります。
そのため、後遺障害が発生しそうな重症なお怪我を負われた場合、交通事故から早期に、交通事故と医療に詳しい弁護士にご相談される必要があります。
適切な後遺障害の認定がされなければ、その損害は数百万円から数千万円になることもあります。
適切な損害賠償を得るために、知っていただきたいことがあります。
ここでは、交通事故によるCRPSと後遺障害について、東京都千代田区において交通事故事件のご相談を多く受ける理学療法士かつ弁護士が、詳しく解説します。
CRPS(Complex Regional Pain Syndrome複合性局所疼痛症候群)とは、怪我が治った後にも痛みが続くもので、その痛みが元々の怪我から想定される程度よりも相当に強度なものを指します。
交通事故で骨折や神経損傷を負った場合に、この怪我が治っても非常に強度の痛みが続く場合に、このCRPSという病態が問題になることがあります。
CRPSは、強度の痛みを特徴とする疾患であるカウザルギーと反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)という2つの疾患を、新たに1つの病態として名前を統一したものです。
この病態が最初に発見されたのは、アメリカにおいて南北戦争後、神経損傷の患者を治療する中で、神経損傷自体は軽症であるものの、早期に異常で高度の疼痛、浮腫や皮膚温、皮膚色の変化、発汗異常等の症状が発現する患者がいることが報告されたときです。1867年にMitchellがこの病態がカウザルギー(causalgia)という名称を用いました。
この報告がドイツにもたらされて知られるようになり、その後、神経損傷が無くても骨折等を引き金として同様の症状が発生することが報告され、臨床医の間で知られることとなりました。
この病態は交感神経の異常興奮によって引き起こされるとの仮説が立てられ、1946年にEvansがRSD(reflex sympathetic dystrophy:反射性交感神経性ジストロフィー)という名称を用いました。
その後40年近く、RSDは交感神経の異常興奮によるものと考えられていましたが、交感神経ブロックなどの治療は期待されたほどの効果を発しませんでした。
そして、RSD患者の多くでは交感神経の興奮性は病変部では逆に低下していることが示され、交感神経の興奮そのものではなくアドレナリンの受容体に異常が生じていることが報告されました。
そうなると当初考えられていた交感神経の異常興奮から名づけられたRSDという疾患名は不適当であると考えられるようになりました。
また、症例数が少ないこの病態を症例数を集めて研究するため国際共同研究の開始が提案され、1994年に国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)においてCRPS(Complex Regional Pain Syndrome:複合性局所疼痛症候群)という病名が提唱されました。
このとき、神経損傷の有無により、神経損傷が明らかでないtypeⅠ(それまでのRSDに相当)と、神経損傷が明らかなtypeⅡ(それまでのカウザルギーに相当)に大別することが決められました。
現在では医療的にはRSD、カウザルギーという疾患名は一般的ではなく、CRPS typeⅠとtypeⅡという疾患名に統一されています。
もっとも、後遺障害の分野ではいまだにRSDとカウザルギーという疾患名が使用されているので、近年の裁判例であってもこの疾患名が使用されています。
まだCRPSの発生機序は明確に定義されているとはいえませんが、研究報告によってさまざまな発生機序が関連してCRPSの病態を形成しているのではないかと考えられています。
交感神経遠心性刺激の関与
正常な状態では、交感神経線維と感覚(Aδ線維)や痛みを伝える神経(C線維)につながりはありませんが、CRPSでは発症のきっかけとなった怪我などにより交感神経線維と感覚や痛みを伝える神経が接触してしまい、痛みを起こさないはずの交感神経の神経の興奮が、痛みを発生させる神経を興奮させてしまい何もしていないはずなのに痛みが発生してしまう状況になってしまいます。
これがCRPSに特徴的な何もしていないのに痛いという病態を発生させているのではないかと考えられています。
また、感覚を伝えるAδ線維や痛みを伝えるC線維に異所性(本来存在しないはずの場所に存在する)ノルアドレナリン受容体が出現し、交感神経末端から放出されたノルアドレナリンがこの異所性ノルアドレナリン受容体を刺激することで感覚を伝えるAδ線維や痛みを伝えるC線維が痛みの信号を発するようになるという機序もCRPSの原因の1つと考えられています。
感覚刺激や痛み刺激は、通常神経の末端で感知され、そこから脊髄に向かって刺激を伝えていきますが、本来上に向かって進行する刺激信号が、別の神経線維の枝を通って逆行し、身体の末端方向で刺激が進行することで、その神経末端から、炎症反応を発生させるサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチドを放出することがあります。
そうすると本来炎症反応を発生させなくてもよい場所で炎症反応が発生してしまうことがなります。
痛み刺激が発生することが継続的に発生すると、痛み刺激に対して敏感になる反応が出現します。
脊髄後角でサブスタンスPやグルタミン酸などの放出亢進が起き、さらにその刺激を受け取る2次ニューロンでも電気信号が発生しやすい状態になっており、活動電位が発生しやすくなっていると、痛み刺激が通常よりも強い刺激として感知されることになります。
また、脊髄後角で炎症作用が亢進され、さらに痛み刺激が発生しやすい状態となります。
Aβ線維とは、触覚や圧覚を伝える神経線維です。
人は痛みを感じるとその箇所をさすることがありますが、これは痛み刺激を触覚の刺激(Aβ線維)を発生させることで抑えているためです。
このAβ線維が切断や損傷すると、この抑制作用が低下し、痛みが発生した時の刺激が強く感じられるようになります。
CRPSはtypeⅠとtypeⅡが同様の病態を示すことが知られており、神経損傷が明らかでないCRPS typeⅠにおいても神経学的変化が起きているのではないかと考えられています。
2005年~2007年に国内でのCRPSの疾患概念を確立するために全国規模で疫学的臨床研究を行うことを目的として厚生労働省CRPS研究班が組織されました。
この研究班は、CRPS患者が最初に受診することが最も多い整形外科と、整形外科を中心とした他診療科からCRPS患者の診断・治療の紹介を受けることが多い麻酔科が中心となって組織され、大学病院、市中病院及び基礎医学講座で構成されました。
この厚生労働省CRPS研究班から提唱されたのが、本邦版のCRPS判定指標です。
この指標が診断基準ではなく「判定基準」と呼ばれるのは、CRPSが疾患ではなく、複数の病態(症状)の集合体であると考えられているためです。
CRPS判定指標(臨床用)
病気のいずれかの時期に、以下の自覚症状のうち2項目以上該当すること。
ただし、それぞれの項目内のいずれかの症状を満たせばよい。
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.持続性ないしは不釣り合いな痛み、しびれたような針で刺すような痛み
(患者が自発的に述べる)、知覚過敏
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮腫
診察時において、以下の他覚所見の項目を2項目以上該当すること
1.皮膚・爪・毛のうちいずれかに萎縮性変化
2.関節可動域制限
3.アロディニア(触刺激ないしは熱刺激による)ないしは痛覚過敏(ピンプリック)
4.発汗の亢進ないしは低下
5.浮腫
研究用CRPS判定指標は、上記A及びBにおいて、いずれも3項目以上該当することとなっています。
臨床用と研究用で該当項目個数が異なるのは、臨床的には広くCRPS疑いの患者に対して治療を行う必要がある一方、研究では対象者がCRPS患者であることが厳格に求められるためです。
① 交感神経ブロック
星状神経節ブロックは、発症早期の上肢CRPSに有効に作用することがあるとされ、胸部交感神経節ブロックは、上肢CRPSに有効で、発症早期の施行が推奨されています。
もっとも、星状神経節ブロックの臨床研究において、交感神経ブロックの効果を示す4つの指標のうち、複数を満足するブロック成功率は30%に満たないという報告があります。
また、交感神経が遮断されても、CRPS typeⅠにおける疼痛緩和はせいぜい50~60%程度であるという研究報告もあり、すべてのCRPS症例に有効な治療法であるとはいえません。
② 感覚神経ブロック
局所麻酔薬を投与して感覚神経をブロック(遮断)する治療法は、CRPSに対する有効性を報告するものは少ないですが、リハビリテーションとの併用が有効とする報告があります。痛みを抑えた状態で患者の動きを促し、日常生活の活動量を上げる効果が期待できるとされています。
SCSとは、体内に刺激電極を埋め込み、刺激装置から電流を発生させることにより痛みを軽減させる手術を伴う治療です。
侵襲的な治療であるため、まずはトライアル刺激で有効性を確認してから適応を検討します。慢性期の患者に対しても効果が期待できますが、長期的な追跡調査では効果が減弱することが報告されています。
① ステロイド薬
ステロイド薬の短期投与が有効であるとの報告があり、皮膚温の上昇や浮腫など、炎症機転が関与していると考えられる症例では推奨されています。
② ビスホスホネート製剤
CRPSに対する有効性が多くの研究で示されています。骨の萎縮だけでなく、痛みや浮腫、アロディニアなどを抑制する効果があり、骨萎縮を伴う症例では早期から投与すべきであるとされています。
③ NSAIDs(Non-Steroidal Anti-Inflammatory:非ステロイド性抗炎症薬)
抗炎症作用、鎮痛作用、解熱作用を有する薬剤の総称です。
炎症機転が関与していると考えられる急性期の症例では、NSAIDsの投与は合理的であるとされています。
理学療法はCRPSの第一選択として推奨されています。理学療法と作業療法は、発症1年以内の痛みを軽減し、活動性を回復するとされています。
理学療法の前に、患部への温熱刺激、温冷交代浴などを実施し、痛みの緩和や筋肉の弛緩を図るとよいとされています。
集学的治療
CRPSは難治性であることから、早期に診断し、集学的治療を行うことが重要であるとされています。つまり、発症早期から上記の複数の治療法を同時進行させていくことが生活の質向上につながるとされています。
治療目的は、第一に機能回復であり、リハビリテーションが治療の根幹となり、病態に合わせて物理療法、薬物療法、神経ブロック療法等を併用していきます。
労働災害及び交通事故の後遺障害の場面では、カウザルギーと反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)に分けて等級の認定がなされています。
弁護士が早期から交通事故または労働災害によるCRPSの疑いがある方から相談を受けた場合は、その方がCRPSの判定指標上CRPSと認定できるかをまず検討する必要があります。
CRPSは症例数が少ない疾患のため、CRPSを実際に複数診察したことがある医師の数はそれほど多くありません。
そのため、CRPS疑いと診断名がつけられた場合であっても、判定指標によればCRPSに該当しない場合があります。
整形外科でCRPS疑いの診断名がつけられた場合は、可能であれば麻酔科のペインクリニックを紹介してもらい、ペインクリニックにおいて診断をしてもらう方がよいでしょう。
カウザルギー(CRPS typeⅡ)
カウザルギー
(末梢神経の不完全損傷によって生じる灼熱痛)を伴うもので、「疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる多角的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断」して等級の認定を行います。
第7級の4 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの (軽易な労務以外の労働に常に差し支える程度の疼痛があるもの) |
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第9級の10 | 神経系統の機能又は精神に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの (通常の労務に服することはできるが、疼痛により時には労働に従事することができなくなるため、就労可能な職種の範囲が相当な程度に制限されるもの) |
第12級の13 | 局部に頑固な神経症状を残すもの (通常の労務に服することはできるが、時には労働に差し支える程度の疼痛が起こるもの)
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()内の記載が労働災害の後遺障害の基準であり、実質的には疼痛の程度がこの労働災害の基準に合致するか否かで等級の判断が行われていると考えられます。
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD。CRPS typeⅠ)
反射性交感性ジストロフィー
(RSD。神経の損傷が明らかでないが強度の痛みがあるもの)
の3つの症状がいずれも明らかに認められる場合に、「疼痛の部位、性状、疼痛発作の頻度、疼痛の強度と持続時間及び日内変動並びに疼痛の原因となる多角的所見などにより、疼痛の労働能力に及ぼす影響を判断」して等級の認定を行います。
等級の基準はカウザルギーと同様です。
反射性交感神経性ジストロフィー(RSD)はカウザルギーと異なり、神経損傷が客観的には明らかでないため、上記の3要件を満たした場合に後遺障害の存在が認められます。
交通事故、または労働災害の後遺障害でRSDの等級が認定されるためには、まずCRPSの判定指標にのっとって発症を明らかにし、また、上記3要件を適切に証拠化することが必要です。
そのため、弁護士としては、依頼人の既に取得している医療情報で、それらが立証できるかを検討し、不十分である場合には客観的に明らかな証拠を作成する必要があります。
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